非常に小さい観察対象や、対象の微細な構造などを観察するために使用される透過型電子顕微鏡は、光の代わりに電子線が使われる顕微鏡です。細胞の組織構造、素材の結晶構造など、通常の光学顕微鏡では難しい微細な対象の観察や分析に用いられます。本記事では透過型電子顕微鏡の原理やメリット・デメリット、他の顕微鏡やデジタルマイクロスコープとの違いについて詳しく解説します
透過型電子顕微鏡とは?
透過型電子顕微鏡とは電子線を利用して観察する顕微鏡のことです。通常の光学顕微鏡では観察できない、ナノメートル以下の微細構造まで観察できるのが特徴です。電子線を使う理由は分解能の高さにあります。光学顕微鏡の分解能は使用する光の波長によって制限され、可視光(約400~700nm)を用いる光学顕微鏡では、理論的な分解能の限界は約200nmとされています。しかし電子線は高い加速電圧をかけることで、0.1〜0.2nmと極めて短い波長を作れます。これにより高分解率が実現し、100万倍以上の拡大でも鮮明な像が捉えられます。
拡大倍率範囲は数百倍~数百万倍と広く、エネルギー分散型X線分析装置を付加すれば化学組成分析、結晶分析、生物の細胞構造観察、半導体構造の観察、そして元素分析まで可能です。
透過型電子顕微鏡の原理
透過型電子顕微鏡は電子線を作る電子銃と加速管、集束レンズ、対物レンズ、投影レンズといった磁界レンズ群、しぼりなどで構成されています。電子線は空気中では分子にぶつかって自由に動けないため、鏡筒内は真空です。
透過型電子顕微鏡は、照射した電子線が観察対象を通過する際に起こる相互作用によって散乱や吸収、回折が起こる原理を利用しています。電子線は対象の構造や構成成分の違いによって、散乱・吸収される電子の密度が変わります。光学顕微鏡でいうところの、屈折率の違いで光が散乱するのと似た現象です。試料の厚さや密度の違いにより透過する電子の量が変化し、これが像の明暗として現れます。この電子の干渉像を磁界レンズで捉えて拡大し、結像させるのが透過型電子顕微鏡の仕組みです。
光を電子線に、光学レンズを磁界レンズに変えただけで、観察の基本的な仕組みは一般的な光学顕微鏡と変わりません。ただ鏡筒内の配置は光学顕微鏡とは逆で、最上部に電子線を発生させる装置があり、最下部で蛍光板上に像を投影させ、その像をモニターで観察します。
透過型電子顕微鏡のメリット・デメリット
透過型電子顕微鏡のメリットは、分解能が高く光学顕微鏡では難しい高倍率でも鮮明な像を得られる点です。微細な構造を捉えられるため、対象の内部構造の詳しい観察も可能です。例えば高密度ポリエチレンなどの高分子素材を透過型電子顕微鏡で映し出すと、層状に重なったラメラ構造まで鮮明に観察できます。また、エネルギー分散型X線分析装置を併せて使用すれば、観察対象に含まれる元素の種類や含有量を調べることも可能です。
一方、筐体が大きいことや導入、維持に費用がかかる点はデメリットでしょう。透過型電子顕微鏡は電子線照射に耐えられる物質であれば、観察できます。ただし、電子線を透過できる薄さでなければならないため、対象を観察できる状態に整えなければいけません。真空状態でも形状や性質を維持できる物質でなければ観察できないため、観察可能な対象が限られる点もデメリットです。
透過型電子顕微鏡と他の顕微鏡の違い
透過型電子顕微鏡と他の顕微鏡との違いを解説します。
走査型電子顕微鏡との違い
走査型電子顕微鏡は、透過型電子顕微鏡と電子線の当て方が異なります。走査型電子顕微鏡は電子線を透過させるのではなく、点または線状に絞った電子線で対象をスキャンして観察します。電子線を対象に放つと対象から二次電子などが放出されますが、この信号を捉えて結像させるのが走査型電子顕微鏡の仕組みです。対象表面の細かな凹凸、微細な欠陥の観察に利用されます。透過型電子顕微鏡と同様にX線分析装置を付加すれば、元素分析も可能です。
光学顕微鏡との違い
光学顕微鏡は可視光を用いるため、一般的な明るさを保てる場所であればどこでも観察可能です。操作が簡単で、照明方法や観察方法を変えるだけでさまざまな対象の観察が可能です。ただし分解能には限界があり、可視光より小さいものは鮮明に観察できません。
透過型電子顕微鏡は可視光より波長の短い電子線を用いるため高い分解能が期待でき、より小さな対象の鮮明な観察が可能です。しかし真空環境が必要なため、筐体は大きく操作には知識が欠かせません。また観察できるのは固体で、電子が通過できる薄さであること、高分子のように電気を通さない対象の場合は導電処理が必要など、事前準備が必要な点も光学顕微鏡との違いです。
デジタルマイクロスコープとの違い
デジタルマイクロスコープは、光学顕微鏡にデジタルカメラが組み合わされ、操作性や観察結果の共有のしやすさの点で優れる顕微鏡です。自動車などの精密部品、半導体ウエハ、微生物、細胞、メッキ、化粧品、食品など、固体に限らずさまざまな対象の観察に活用できるのが電子顕微鏡と異なる点です。光学顕微鏡より被写界深度が深いため、表面が凸凹している対象を観察する場合でもピントを合わせやすい特徴があります。高倍率での観察が可能ですが、電子顕微鏡ほどは拡大できません。
まとめ
透過型電子顕微鏡は、観察対象を透過する電子を捉えて結像させる仕組みの電子顕微鏡です。可視光線を使用する光学顕微鏡では実現できない高倍率、高分解能での観察が可能なため、原子レベルの分析を実現できます。筐体は大きく、導入には大きなコストがかかりますが、高度な分析や研究が必要な場面で広く活躍している顕微鏡です。
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