精密部品の外観検査には、正確な計測ができる光学機器の存在が欠かせません。テレセントリックレンズは、高さや奥行きのある物体でもひずむことなく精密に計測できる光学レンズです。
本記事ではテレセントリックレンズの特徴や通常のレンズとの違い、基本の原理とメリットについて解説します。
テレセントリックレンズとは?
テレセントリックレンズとは、高さのある物体や、コネクタピンのように視差が生じやすい物体の正確な観測を実現するために開発された光学レンズです。
以下のような部品の測定や外観検査に多く用いられています。
- 自動車の精密機械部品
- 精密な密閉力が必要とされる医薬品用のガラス容器
- トランジスタなどの電子部品
- 形を変えないまま取り扱うのが難しいゴムやプラスチック製の部品
通常のレンズとの違い
通常のレンズの場合、近くのものは大きく映り遠くのものは小さく映ります。またピントを近くのものに合わせれば、遠くのものはピンボケします。さらに、視野の中心に置いた物体は真上から捉えることができますが、端に置いた物体はわずかながら側面が見えてしまうでしょう。
一方、テレセントリックレンズには、観察者の位置や物体との距離によって見え方が変わる視差エラーがありません。被写界深度内であれば、観察対象をどの位置に置いても一定の倍率を保ち、ピントが合った状態で確認可能です。
例えば、コネクタピンを真上から観察した場合、通常のレンズでは視野の両端に置いたピンは側面が見えてしまいます。しかし、テレセントリックレンズでは、全てのピンを真上から見た像で捉えることができます。
テレセントリックレンズの基本原理
テレセントリックレンズは主光線の焦点距離に絞り環を設置し、主光軸に平行してレンズに入射する光のみを取り込めるようになっています。斜めの入射光を省くことで、視差のほとんどない像を結べる仕組みです。
テレセントリックレンズには以下の3つの種類があります。
- 像側テレセントリックレンズ
- 物体側テレセントリックレンズ
- 両側テレセントリックレンズ
それぞれの仕組みについて説明します。
像側テレセントリックレンズ
像側テレセントリックレンズは、物体側に絞り環、像側にレンズが設置されています。像側の主光線のみがレンズ光軸に平行になる仕組みで、バックフォーカス(レンズの最後面から焦点までの距離)が変化すれば、倍率やワーキングディスタンス(レンズ先端から物体までの作動距離)も変化します。
焦点深度が深くなる傾向で、視野の明るさが均一なのが特徴です。半導体露光装置など色ズレ補正効果が重視される機器では、この像側テレセントリックレンズが必要とされます。
物体側テレセントリックレンズ
物体側テレセントリックレンズは、像側テレセントリックレンズとは反対に像側に絞り環があり、物体側にレンズが設置されています。物体側の主光線のみがレンズの光軸に平行となっており、被写界深度内であれば観察の物体がどこに位置していても実視野寸法が変化することはありません。バックフォーカスが長いと高倍率になり、短ければ低倍率になります。
像側テレセントリックレンズ、両側テレセントリックレンズと比較するとコンパクトな形状のため、大型カメラでは対応が難しい検査の際に役立ちます。一般的にテレセントリックレンズというと、この物体テレセントリックレンズ、または次に紹介する両側テレセントリックレンズを指している場合がほとんどです。
両側テレセントリックレンズ
両側テレセントリックレンズは、像側、物体側それぞれにレンズがあり、その間に絞り環が設置されています。像側、物体側いずれも主光線がレンズの光軸に平行になっているのが特徴です。被写界深度内であれば物体の実視野寸法が変化することはありません。バックフォーカスが変化すれば、ワーキングディスタンスも変化します。
像側、物体側の両方でテレセントリック効果を期待できるため、物体の位置決めやカメラ側の安定性を保つのが難しい場合でも観察でき、他の2つのテレセントリックレンズと比較しても高精度の測定が可能です。ただし大型でコストが高くなる傾向があります。
テレセントリックレンズのメリット
テレセントリックレンズは視差エラーがないため、視野の端側の像でもほとんどひずまず、高さのある物体や複雑な形状の物体でも正確に計測できるメリットがあります。また同軸落射照明を併用すれば、視野内の明るさのムラをなくせるため、ハレーションを抑えて安定した像を捉えることができます。
通常のレンズと比較すると大型で高コストになる傾向がありますが、目的に応じて利用すれば画像検査のスピードや性能を大きく向上できるメリットがあります。
まとめ
テレセントリックレンズは通常のレンズとは異なり、視差エラーがなく、高さや長さのある物体の高精度な外観検査を実現する光学レンズです。テレセントリックレンズには3つの種類があります。それぞれの特徴を知り、目的に合ったものを選ぶようにしましょう。
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