位相差顕微鏡は一般的な光学顕微鏡による明視野観察では難しい、無色透明な対象の観察に使用される顕微鏡です。細胞や微生物、血液、血小板などの鮮明な観察が可能で、固定や着色といった特別な処理も必要ありません。そのため生物学、医学分野では欠かせない顕微鏡として活用されています。
本記事では位相差顕微鏡とはどのようなものなのか、原理やメリット・デメリット、デジタルマイクロスコープとの違いを詳しく解説します。
位相差顕微鏡とは?
位相差顕微鏡とは、試料によって生じる光の位相差を、回折光と光の干渉現象を利用して明暗のコントラストに変換し、観察する顕微鏡のことです。細胞や微生物など無色透明な対象物を観察する際、通常の顕微鏡ではほとんど像を捉えられず、正しく観察できません。そこで対象を染色して観察する方法が用いられますが、この場合対象は死滅してしまいます。
位相差顕微鏡は、対象の構造を光のコントラストで捉えます。立体的な像になるのが特徴で、染色の必要がなく生きたまま観察可能です。珪藻など微細生物の観察や細胞の観察、血液、尿などの臨床検査といった幅広い対象の観察に対応しています。生物、医学分野の観察・検査に欠かせない顕微鏡です。
位相差顕微鏡の原理
直接光と回折光の干渉によって通常は見えない位相差を顕現させ、光のコントラストで対象の形や輪郭、構造を捉えるのが位相差顕微鏡の原理です。回折光の位相差は、直進光の位相を1/4λ進めたり遅らせたりして作ります。これにより、直接光と回折光の位相差が1/2λまたは0になるようにして干渉させるのです。
直進光の位相を1/4λ進め、直接光と回折光の位相差が1/2λ、つまり逆位相になると互いに打ち消し合うため干渉している部分(観察対象)は暗く、背景は明るくなります。一般的にこのコントラストの付け方を「ダークコントラスト」と呼びます。
他方、直進光の位相を1/4λ遅らせ、直接光と回折光の位相差が0になると同位相となり、互いに強め合うため、対象物は明るく背景は暗い状態です。このコントラストの付け方は「ブライトコントラスト」と呼ばれます。
位相差顕微鏡はこの原理を実現するために、対物レンズには位相版が、コンデンサ部分には環状しぼりが組み込まれています。環状しぼりで調節され、コンデンサレンズを通った光は、対象の内部を通る直進光と回折光に分かれます。回折光は対象の構造の違い(屈折率の違い)によって限りなく変化するため、結像の際詳細な構造を捉えることができるのです。
対物レンズに集約された直接光は位相版を通るため、位相にずれが生じます。一方回折光は位相版の透明な部分を通るため位相は生じず、コントラストのついた像を捉えることができます。
位相差顕微鏡のメリット
位相差顕微鏡では、性能や観察条件にもよりますが、約1/1000λという小さな光路差の検出まで可能なため、わずかな傷や構造の違いも鮮明に捉えられるのがメリットです。捉えた象に方向性は関係なく、対象の向きを気にせず観察できます。
位相差顕微鏡は一般的な顕微鏡と仕組みが異なりますが、環状しぼりを明視野用に交換すれば、そのまま明視野観察を行うことも可能です。
位相差顕微鏡のデメリット
位相差顕微鏡による観察は鮮明なコントラストの象を得られる一方で、対象の周りに独特の「ハロー(光環)」という現象が生じるデメリットがあります。観察対象の縁が過剰に明るくなる現象で、光で白っぽくなるためうまく観察できません。
また位相差顕微鏡での観察は微細な位相差の対象の観察には向いていますが、位相差が大き過ぎる対象や分厚い対象の観察には不向きです。
位相差顕微鏡とデジタルマイクロスコープの違い
位相差顕微鏡をはじめ従来の顕微鏡は、多少の相互性はあるものの、基本的に観察方法に合わせて顕微鏡を選ぶことが詳細な観察に欠かせません。また正しく観察するためには事前の精密な設定が必要な場合があります。例えば、位相差観察を行う際には、コンデンサのリング絞りと対物レンズの位相板の位置を正確に合わせる必要があります。これにより、より適切なコントラストの像を得ることができます。調整は手作業になるため慣れるまでは時間もかかるでしょう。
一方デジタルマイクロスコープはアダプタなどが必要になることもありますが、画像が自動的にデジタル処理されるため、事前の手間を省いて素早く詳細な画像を得ることが可能です。簡単に観察方法を変えることもできるため、顕微鏡をわざわざ交換する必要がありません。モニターに像を映すため、同時に複数人で観察しすぐに意見交換できるのもデジタルマイクロスコープならではの特徴です。
まとめ
位相差顕微鏡は、一般的な顕微鏡では難しい無色透明な対象の観察を可能にする顕微鏡です。明視野観察も可能ですが、基本的に位相差観察に特化しているため、他の観察方法を試したい場合は、顕微鏡も別のものにする必要があります。
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